仮想通貨の取引で法人設立のメリット・デメリットの解説

一時期よりは落ち着いたとはいえ、まだまだ仮想通貨の売買を行っていらっしゃる方はまだまだ大勢いらっしゃいます。大きな利益を手にした方にとっては税金の負担を重く感じることだと思います。そこで、今回は仮想通貨の取引を個人ではなく法人で行うメリット・デメリット・また法人化の方法について解説したいと思います。

法人化のメリット

税率

仮想通貨取引により得た所得は原則として雑所得に該当することとされています。
個人の場合には所得税が5%から45%の累進税率により、住民税は一律10%の税金が課されることとなります。また、所得税率の2.1%相当の復興特別所得税もかかってきます。
そのため、所得が高い方で最高税率に該当する場合、課税所得の55.945%相当の税金が発生することとなります。

これに対し、法人の2018年度の実効税率は33.6%(東京都)となっています。
このため、一定の所得を超えると個人よりも法人の税率の方が低くなり、法人で仮想通貨取引を行ったほうが税金上有利となります。

家族を従業員として給与を支給できる

個人所得は、累進税率により所得に応じて税率が高くなり税負担が重くなりがちです。そこで、家族や親族を従業員として雇用することで、家族間で給与を分散することで世帯全体の所得税負担を軽くすることができます。個人事業主の場合、「青色事業専従者給与に関する届出書」という書類を税務署に提出すれば、親族への給与を経費として認められます。
もっとも、仮想通貨取引は、個人の所得だと雑所得に分類されるためこの青色事業専従者給与制度を使用することはできません。
これに対し、法人の場合には、家族に対して支払った給与は、その職務内容と金額が妥当であれば、経費と出来る場合があります。

個人所得は、累進税率により所得に応じて税率が高くなり税負担が重くなります。そのため、法人成りして親族へ給料を支給することで、一人で負担していた所得が家族に分散されるので、世帯全体でみると税金を下げる結果となります。最も、給与を支給する従業員に勤務実態がなければ否認されてしまうので、
名義上だけ従業員扱いにするというのは注意が必要です。

給与所得控除を受けられる

 法人化すると、法人から給与を受け取ることで、個人事業主では受けることのできない給与控除を活用することができます。
例えば、役員報酬を年収500万円に設定した場合、約154万円の控除を受けることが出来ますが、個人事業主で利益が500万円の場合、青色申告でも年間65万円の控除が受けられるだけです。

  1. 退職金制度を活用できる
    個人事業の場合、本人または事業専従者に退職金を支払うことはできませんが、法人の場合には、適正な金額の範囲内であれば経営者や従業員に対して、退職金を支給することができます。
    支給された退職金は、退職所得として受け取ることができますので、退職所得控除を引いて1/2をした金額が課税対象の所得になります。
    退職所得=(退職金支給額-退職所得控除)×1/2

欠損金の繰り越し


仮想通貨取引により得た所得は原則として雑所得に区分されますので、例えばある年で仮想通貨取引によって通年で損失となった場合、その損失を翌年以降に繰り越すことはできません。
これに対し、法人の場合には、青色申告制度を適用している法人は、翌年以降に損失を繰り越すことができ、翌年以降の利益と相殺することができます。この翌年以降に繰り越される損失のことを「繰越欠損金」と言います。ただし、繰越欠損金は繰越欠損金を繰り越せる期間は決まっており、平成30年4月1日から始まる事業年度以降で発生した繰越欠損金の繰越期間は10年間と規定されています。

法人化のデメリット

 次に、個人から法人化(法人成り)する場合の、税金上のデメリットについて説明します。

法人化のデメリットとして主なものとして下記の事項があげられます。

 会社の設立にお金がかかる
 赤字でも税金が毎年度7万円以上取られる
 社会保険料が重くなる
 交際費等を経費扱いにしにくくなる
 税務・会計の処理が難しい

法人設立費用

法人化をすると、設立の手続に以下の費用がかかります。

 法人印 約1万円
 銀行口座開設費用(法人口座開設費用、法人登記簿謄本、印鑑証明)3,000円程度
 登録免許税(株式会社:約15万円、合同会社:約6万円、一般社団法人:約11万円)
 定款認定手数料 約5万2,000円
 専門家報酬 約10万円(自分自身で設立手続を行えば費用はかかりません。)

設立費用の額は、会社の形態が株式会社・合同会社にするかによって違います。最も安くて済むのは合同会社です。

赤字の年度も税金が毎年度7万円以上取られる


個人事業主で事業所得が0円の場合、所得税も住民税もかかりません。ところが、法人化をすると赤字でも「法人住民税」という税金を支払わなければなりません。

社会保険料負担が重くなる


法人化すると、従業員の数にかかわらず社会保険の加入義務が生じます。たとえ代表者一人の法人であっても、加入義務は生じます。

  1. 交際費等を経費扱いにしにくくなる
    個人事業主では交際費に上限はありませんが、法人では交際費を年間800万円までしか損金にすることができません。もっとも、個人で年間800万円以上の交際費を使うことはまれですから、あまりデメリットとは言えないでしょう。

会計処理が難しい


個人の確定申告書はそれほど複雑ではありません。最近では、インターネットに申告方法も丁寧に解説してあるサイトがあるので、それを見ればひとりで申告することも比較的容易です。
しかし、法人の場合、法人税や地方税の申告書は難しくまた処理や規定も複雑で、税理士に顧問を依頼しないと適切な申告は難しいといえるでしょう。

個人で持っている仮想通貨を法人に移す方法

個人で保有している仮想通貨資産を法人へ移す際、問題となるのは、どのような方法で移転させるか、価額をどうするか、という点です。

個人から法人に資産を移転させる方法として、「譲渡」と「現物出資」 の二通りが主に考えられます。

譲渡


これは、その名前の通り、個人から法人に仮想通貨を譲渡する方法です。この方法は一番シンプルでわかりやすい方法となります。譲渡による場合、その譲渡価額は仮想通貨の「時価」となります。そのため、購入する側の法人で購入資金が必要になるので、購入資金に相当する資金を資本金として拠出するか、設立者である個人が資金を貸し付ける必要があります。
 次に、譲渡する際の譲渡価額ですが、これは「適正な時価」で行う必要があります。
また、時価で売却した個人には原則として雑所得として所得税が課せられます。
 
一般的に取引されている仮想通貨は仮想通貨マーケットで値段がついておりますので、その価格を取引価額とする必要があります。

時価よりも低い価額で譲渡してしまうと、時価譲渡したものと見做され、個人は所得を認識する必要があります。一方、購入する側の法人は、時価と譲渡価額との差額については受贈益として法人税が課税されることになります。また、時価よりも高い価格で譲渡する場合には、譲渡価格と時価との差額については、法人から役員(個人)への賞与として取り扱われることとなります。役員賞与については、税務上損金に算入することができず、法人側で損する結果となります。
つまり、譲渡する場合には、適正な時価で譲渡する必要があります。特に、無償による譲渡はやめておいたほうが得策と言えます。

現物出資


会社には設立時に資本金が必要となります。資本金は一般的に金銭出資が原則ですが、
金銭に替えて、棚卸資産や有価証券等も資本金として拠出可能です。
手持ちの仮想通貨を利用することで、会社設立の資金を準備することなく会社設立することが可能です。但し、現物出資を行うにあたっては、現物の評価のため裁判所が選任した検査役の調査か、弁護士・公認会計士・不動産鑑定士等の評価証明必要となります。
資本金として拠出する財産の評価が求められることから、金銭出資と比較すると煩雑な方法と言えるでしょう。但し、資本金として拠出する財産の価額が500万円以下であれば、
また、仮想通貨を出資する個人側でも、譲渡した場合と同様、出資時の時価と取得価額との差額について雑所得として認識されます。

まとめ


 仮想通貨を大量かつ多額に売買する方は、法人を設立して行ったほうが税務上は有利になるケースが多くなるといえるでしょう。(仮想通貨取引で儲かることが前提ではありますが)。仮想通貨の法人設立に当たっては、留意すべき点がいくつかありますから、設立に当たっては、税理士等の専門家にご相談されることをお勧めします。