税務調査の概要について解説します。
目次
税務調査とは?税務調査の種類
税務調査と聞くと、皆さんなんとなく怖いイメージを持たれるかと思います。
税務調査は、概ね2種類に分けられます。「強制調査」と呼ばれるものと「任意調査」と呼ばれるものです。
「強制調査」とは、脱税額が1億円を超え、なおかつ悪質な仮装隠蔽工作がなされたと想定される場合に行われます。強制調査は極めて悪質な場合に行われます。年間の摘発件数も200件ほどですので、よほどのことをしない限りは、強制調査を受けることは稀だと思います。
これに対して、「任意調査」とはその名の通り、納税者の任意に基づいて行われます。
任意ということになってますが、実際に断ることは出来ないと思ってください。
税務署の職員がオフィスに来て、帳簿書類を調べ適正な申告が行われているかを確認します。
通常は過去3年分に遡って調査されますが不正行為があった場合などは最大7年前まで遡られることがあります。
調査官も時間をかけて調べているわけですから、1円でも多く税金を回収しようと必死です。ですので、常日頃から税務調査で大きな指摘を受けないように備えておく必要があります。
税務調査で申告の不備を指摘された場合、まず本来の税額との不足の税金を支払うことになりますが
それに加えて罰金もかかります。
まず、年14%以上という消費者金融も真っ青の金利で計算される延滞税、
申告金額が少なかったことによる10%の過少申告加算税、
悪質な脱税とみなされれば35%の重加算税が追加で徴収されます。
申告そのものをしていないときは15%の無申告加算税まで取られます。
ですので、申告をごまかそう、税金をごまかそうと思うと、後々大変なことになりますので脱税しよう、などと思わない方がいいでしょう。
税務調査が入る可能性の高い会社
税務調査は事業をしていれば全ての会社が対象になります。
・設立して3期程終了した会社
・売上高や粗利益率などが大きく変動している会社
・以前の調査で大きな追徴を受けた会社
・脱税が多い業界の会社
・大きな利益を出している会社
・前の調査から5年程度経過している会社
・内部告発があった会社
税務調査の実際
通常の任意調査の場合、税務署から事前に電話がある場合と突然税務署が来る場合があります。突然来る可能性が高い業種が、飲食店のような「現金商売」をしている会社や、大きな利益を出している会社、脱税の証拠を握られている会社などです。
突然来られた場合は、顧問税理士に相談して、税理士が来るまで待ってもらうか、後日改めてきてもらうように説得してもらいましょう。
顧問税理士が「税務代理権限書」を税務署に出していれば、原則的に会社に電話が事前にかかって来る事があります。
電話で事前に通知される事項は下記の通りです。
1 実地調査を行う旨
2 調査の日時、場所、目的、税目、期間、帳簿書類
3 調査の対象者である納税者の使命及び住所等
4 調査を行う税務職員の氏名及び所轄税務署
5 調査開始の日時 等
まずは日程の調整が始まります。
税務署が「何月何日に調査をしたい」と言ってきますので、その日程で問題がなければ税務調査の日付が決定します。
税務署の言ってきた日程に不都合があるときは、変更を希望する旨伝えます。
税務調査は通常は2日行います。
1日目は午前中を使って会社の概要について質問されます。
聞かれる内容は、概ね次のようなことです。
- 会社の沿革
- 業務内容
- 営業方針
- 業界の状況
- 会社の組織の仕組み
- 従業員の状況
- 売上について営業から受注、納品、入金までの具体的な流れ
- 価格の決め方
- 売掛金の回収方法(預金振込か現金回収か)
- 売上の計上タイミング(出荷時か請求時か現金回収時か)
- 売上に関する帳票はどういったものがあるか
- 売上の締め日・入金までの期間
- 給料の締め日・支払い日までの期間
社長の趣味
等々
そして概況調査が終わると、帳簿の調査に移ります。
通常調査は夕方ごろになると終了し、翌日に提出してほしい資料等の
打ち合わせが始まります。
2日目も同じように税務調査が始まります。
16時になれば2日間の調査内容について報告があります。
当日その場で追徴税額が決まるわけではなく、後日正式に否認された事項並びに
追徴税額が決まります。これを「否認事項」といいます。
税務調査後の対応
調査の日から通常1週間~1ヶ月くらいで「否認事項」の知らせがあります。
その場合、「修正申告書」を作って税務署に提出し、追徴税額を納めて税務調査終了となります。
もし否認事項に不服があれば、税務署と協議することになりますが、それでも認められずに修正申告をしない場合には、税務署から「更正」処分と呼ばれる、一方的に税額を修正される措置が取られます。この更正処分にさらに不服がある場合には税務署長に対して異議申し立てを行うことになります。
また否認事項が無ければ、特段対応することはありません。
税務調査の具体的検討事項
では、税務調査では、具体的にどういった項目について調査されるのでしょうか?
概ね、売上に関する事項と費用に関する事項に分けられます。
売上に関する事項
売上の計上時期のズレ
これは、例えば第1期に計上すべき売上を第2期に計上したというようなことです。
決算月が3月として、3月に納品が終わり本来は3月に売上計上しなければならないものを
翌月4月の入金のタイミングで売上計上してしまったような場合です。
税務上は売上の計上時期は基本的には「商品を引き渡したとき」や「サービスを提供したとき」に計上する必要があり(実現主義といいます)、「入金があったとき」(現金主義といいます)や「請求書を出したとき」(請求書基準といいます)ではないのです。
調査官は、発注書や納品書・請求書・入金履歴等を見ながら調べて行きます。
なお、意図的に翌期に売上計上したような場合には、仮装隠蔽行為とみなされ、重加算税の対象となるので注意が必要です。
売上の計上漏れ
これは、売上をそもそも計上しなかったような場合です。
業績が好調で利益が沢山出そうな年に「売上をなかったことにしよう」として
売上を計上しないような場合です。
例えば、得意先に協力してもらって社長個人の口座に振り込んだとしても税務署は
社長の個人口座も調査できますので、本来あるべき売上をなかったことにしようとしても
かなりの確率で見破られます。また、現金で貰ったとしても、得意先に税務調査が入れば
ばれてしまいます。
本来計上すべき売上は確実に計上しましょう。
費用に関する事項
交際費
交際費は費用項目の中で一番真っ先に確認されます。
何故なら社長個人の生活費や遊興費と思われるものが沢山あるからです。
例えば、
・贈答品(実際には自分で使っている)
・接待旅行(実際には家族で行っている)
・接待(実際には家族・友人と行っている)
個人的な支出と判断された場合には、その支出が社長への役員賞与とされます。
臨時の役員賞与となると全額経費に計上出来ません。また、社長の役員賞与に対する源泉所得税の徴収漏れの扱いとなり、二重課税されてしまいます。
さらに交際費として課税仕入れとして消費税の控除となっていたものも、賞与扱いにより消費税の控除が認められなくなり、消費税の負担も増えます。
あくまでも交際費は、取引先といき、どこの誰と行ったかをしっかり説明できるように
領収書に記載・帳簿の摘要欄に漏れなく記載しておきしょう。
売上原価の過大計上(在庫の過少計上)
これは、期末の在庫金額(資産)を過少計上して、売上原価(費用)を過大計上させる方法です。例えば、当期に利益が沢山出そうだからといって、決算期付近で多額の仕入れをして
も全部が費用に計上されるわけではありません。あくまでも、当期に売上げたものに対応する商品だけが売上として計上され、売れていないものは在庫として計上しなければなりません。
在庫は利益操作に使用されやすいので、在庫のある会社では、税務調査では必ず調べられます。
税務調査では、最初に在庫計算の「過程」を聞かれます。
実施棚卸をどのように行っているか、誰が行ったか、棚卸表は誰が作ったか、把握した数量をどの資料に残すのか、単価はどのデータから拾っているか等々を確認します。
また、決算直後の4月1日の売上を確認し3月31日時点のどの在庫を納品したのか、また決算直前に仕入れた商品をいつ売り上げたのか、売り上げていないなら在庫に計上されているのか等を確認します。
また、外注費についても注意が必要です。
例えば、来期に予定している外注工事を当期に支払って経費に計上しようとする場合です。
この場合も、調査官は発注書や納品書・請求書等様々な書類を突き合わせながら不整合を見つけてきます。原則、売上を計上した時期にそれに係る売上原価を計上することとなります。
人件費
人手の出入りが多い業種やアルバイトが多い会社では、人件費も入念にチェックされます。何故なら、人の出入りが多い事をいいことに、架空人件費を会社が計上している可能性があるからです。そのため下記の書類をしっかり準備して、架空人件費の計上がないことをしっかり説明しましょう。
履歴書
給与台帳
扶養控除等申告書
タイムカード
また、現金による支給ではなく、履歴の残る銀行振込で行うことがより望ましいです。
外注費
外注費も水増しされて計上されることや、架空の外注費を計上、また源泉税の徴収漏れが多くあることから税務調査の際によくみられる項目の一つです。
外注費を水増し計上されたり架空の外注費を計上しても、反面調査と呼ばれる外注先への調査で発覚してしまいます。
また、外注費のうち消費税に相当する部分は、消費税の申告の際に控除できることから
本来給与として計上すべき支払を外注費として計上していないかについても、調査されます。
そのため、外注費が外注費として処理されるためには次のような形式を意識しておくとよいでしょう。
・指揮命令系統が会社にはない。
・契約書を締結する
・発注書・納品書・請求書等の書類を提出してもらう。
また、個人事業の外注先に支払う場合、業種によっては源泉税を差し引いたうえで報酬を支払い、会社が源泉税を納付する必要がありますが、徴収漏れ・納付漏れが多いことから
「源泉税の徴収漏れ・納付漏れの外注費がないか」税務調査で良く調査されます。
源泉徴収が必要な業種は列挙されておりますので、詳しくは下記国税庁の案内をご参考ください
https://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/2792.htm
役員退職金
役員退職金は金額も多額になることや、また退職金は他の所得と比較して税負担が低いことから役員退職金が発生した際にはその支払が妥当か否か税務調査で調べられます。
退職金の上限額は計算式が決まっております。
退職金の上限=最終報酬月額×在任期間×功績倍率
つまり、功績倍率を何倍に設定するから金額が大きく変わってきます。
そして、この功績倍率は適正に算出する必要があります。あくまでも参考ですが、功績倍率は功績倍率の相場は概ね次の通りです
社長・・・・・・3.0倍
専務・・・・・・2.5倍
平取締役・・2.0倍
といわれています。
業種、規模、肩書によって功績倍率は変わります。
税務上、相場を超えた過大な退職金はその超過額を損金不算入として否認されてしまいますので、役員退職金を支給する際には顧問税理士と相談しながら慎重に決める必要があります。
その他の項目
ここまで、主に売上と費用についてみてきましたが、その他にも注意すべき点があります。
関連会社がある会社については関連会社との取引が妥当なものか調査されます。
関連会社に架空の外注費を発注して利益を不当に圧縮していないか調べられます。
また、消費税は原則2期間免除され3期目から納付義務が発生します。そこで、3期目で新たに会社を作って消費税の負担を逃れようとする会社さんもありますが、このような行為は認めらません。
また、過年度と比較して大きく費用が増加した項目や多額の物品の購入についても入念に調査されます。そのような項目がある場合には、税務上適正に処理したことを説明できるように予め準備しておくことが望ましいでしょう。
最後に
税務調査を受けるとなるとやはり身構えてしまうかと思いますし、実際に調査に来るとなると時間が奪われるので負担に感じることもあるかと思います。
顧問税理士が税務調査の際に社長に変わって対応してくれるのか?その際の報酬はいくらなのか?自分をしっかりと守ってくれる存在か?顧問税理士を選ぶ際には料金の安さだけではなく、税務調査の事も念頭に置いて選ぶのが良いかと思います。