ベンチャーのための株式譲渡に関する税金講座

目次

株式譲渡のパターン

共同創業者で事業を起こし、株式を持ち合い、大きな夢に向かってひた走る。ところが、途中であれほど苦労を分かち合った創業者同士が方向性の違いから、去っていくこともベンチャーではよくあることだと思います。そんな時問題となるのが「去っていく人が持っている株式をどうするか?」ということです。もちろん、そんなときに備えて創業者間契約を締結しているケースも多いかと思います。創業者間契約に基づいて、当初の出資価額で株式を去る創業者から残る創業者に譲渡します。
しかし、本当に当初の出資価額で譲渡しても問題ないのでしょうか?結論から言えば、譲渡価額が「適正な時価」で譲渡されている限り、税務的には問題ありません。創業者間契約に基づいて、当初の出資価額で譲渡したとしても、その譲渡価額が譲渡時点の適正な時価であればいいのです。一方、未上場で業績も不安定なベンチャー企業の株価の適正な時価を算定することはそれなりに労力がかかります。適正な時価で譲渡することも難しいケースもあるかと思います。そこで、今回のブログでは適正な時価よりも低い価額又は高い価額で譲渡した場合にどんな税務リスクが生じるのか、解説したいと思います。譲渡するにあたって、どんなリスクが生じるのかを把握しておくことが大事です。
今回のケースでは適正な時価より低い価額又は高い価額で株式の譲渡を行った場合にどのような課税関係が生じるかについて、次の4つのケースを想定しました。まず、譲渡側が個人か法人、譲受側が個人か法人か、合計4つのケースを想定します。さらに、それぞれの場合において、①適正な時価で譲渡した場合 ②適正な時価より低い価額で譲渡した場合(適正な時価の1/2以上)、③適正な時価より著しく低い価額(適正な時価の1/2未満)で譲渡した場合、④適正な時価より高い価額で譲渡した場合を区分して説明します。

想定される譲渡形態
• ケース1 : 個人 → 個人
• ケース2 : 個人 → 法人
• ケース3 : 法人 → 個人
• ケース4 : 法人 → 法人
想定される譲渡価額
① 適正な時価4,000円で譲渡
② 適正な時価より低い価額2,500円で譲渡(適正な時価の1/2以上の譲渡)
③ 適正な時価より著しい低い価額1,500円で譲渡(適正な時価の1/2未満での譲渡)
④ 適正な時価より高い価額5,000円で譲渡

ケース1:個人から個人への譲渡

① 適正な時価4,000円で譲渡した場合

譲渡側(個人) 譲受側(個人)
譲渡価額4,000円と取得価額1,000円の差額である譲渡益3,000円に対して、譲渡所得として課税されます。 譲渡所得=4,000円-1,000円 取得時点では課税関係は生じません。株式の取得価額は4,000円となります。

 

② 適正な時価より低い価額2,500円で譲渡場合

譲渡側(個人) 譲受側(個人)
譲渡価額2,500円と取得価額1,000円の差額である譲渡益1,500円に対して、譲渡所得として課税されます。 譲渡所得=2,500円-1,000円 適正な時価4,000円と譲受価額2,500円の差額の1,500円について、贈与があったものとして扱われ贈与税の対象となります。株式の取得価額は2,500円となります。
贈与=4,000円-2,500円

 

③ 適正な時価より著しく低い価額1,500円で譲渡(適正な時価の1/2未満での譲渡)場合

譲渡側(個人) 譲受側(個人)
譲渡価額1,500円と取得価額1,000円の差額である譲渡益500円に対して、譲渡所得として課税されます。 譲渡所得=1,500円-1,000円 適正な時価4,000円と譲受価額1,500円の差額の2,500円について、贈与があったものとして扱われ贈与税の対象となります。株式の取得価額は、1,500円となります。
贈与=4,000円-1,500円

 

④  適正な時価より高い価額5,000円で譲渡した場合

譲渡側(個人) 譲受側(個人)
適正な時価より高い部分、つまり譲渡価額5,000円から適正な時価4,000円を引いた1,000円について、譲受側から贈与があったものとして取り扱われ、贈与税1,000円が課税されます。また、適正な時価4,000円と取得価額1,000円の差額、3,000円に対して、譲渡所得として課税されます。
贈与=5,000円-4,000円
譲渡所得=4,000円-1,000円 取得時点で課税関係は生じません。株式の取得価額は譲渡側へ贈与したと扱われる部分を除く4,000円、つまり適正な時価が取得価額とされます。

 

個人間の譲渡の場合、個人売主はどんなに安く売っても適正時価で課税されることはありません。これは、個人間の譲渡の場合、譲渡所得して所得税の適用を受けるためです。
また、個人買手は贈与税の規定を受けるため時価と譲受価額の差額について贈与があったものとして見做されて課税されます。

 

ケース2:個人から法人への譲渡

① 適正な時価4,000円で譲渡した場合

譲渡側(個人) 譲受側(法人)
譲渡価額4,000円と取得価額1,000円の差額である譲渡益に対して、譲渡所得として課税されます。 譲渡所得=4,000円-1,000円 取得時点では課税関係は生じません。株式の取得価額は4,000円となります。

 

② 適正な時価より低い価額2,500円で譲渡(適正な時価の1/2以上の譲渡)した場合

譲渡側(個人) 譲受側(法人)
譲渡価額2,500円と取得価額1,000円の差額である譲渡益1,500円に対して、譲渡所得として課税されます。但し、譲受側の法人が同族会社に該当する場合、適正な時価で譲渡したものと見做されます。
譲渡所得=2,500円-1,000円
適正な時価で取得したものと見做され、譲受価額との差額については、寄付があったものとして取り扱われます。
つまり、適正な時価4,000円と譲受価額2,500円の差額について受贈益を計上します。株式の取得価額は適正な時価4,000円となります。
受贈益=4,000円-2,500円

 

③ 適正な時価より著しい低い価額1,500円で譲渡(適正な時価の1/2未満での譲渡)した場合

譲渡側(個人)  譲受側(法人)
適正な時価の1/2未満で譲渡した場合は、適正な時価4,000円により譲渡したものと見做され、適正な時価4,000円と取得価額1,000円の差額である譲渡益3,000円に対して、譲渡所得として課税されます。
譲渡所得=4,000円-1,000円
適正な時価で取得したものと見做され、譲受価額との差額については、寄付があったものとして取り扱われます。
つまり、適正な時価4,000円と譲受価額1,500円の差額について受贈益を計上します。株式の取得価額は適正な時価4,000円となります。
受贈益=4,000円-1,500円

 

④ 適正な時価より高い価額5,000円で譲渡した場合

譲渡側(個人) 譲受側(法人)
適正な時価より高い部分、つまり譲渡価額5,000円から適正な時価4,000円を引いた1,000円について、譲渡人が譲受側の法人の役員・使用人である場合は、給与所得となり、第3者である場合は一時所得となります。また、適正な時価4,000円と取得価額1,000円の差額である譲渡益3,000円に対して、譲渡所得として課税されます。

一時所得or給与所得=5,000円-4,000円

譲渡所得=4,000円-1,000円

適正な時価で取得したものと見做され、取得価額は4,000円となります。
適正な時価4,000円と譲受価額5,000円の差額出ある1,000円に対して、譲渡側が自社の役員・従業員である場合は、賞与扱いとなり(役員の場合は損金算入不可)、また第3者の場合は、寄付金となります(損金算入制限あり)。
賞与or寄付金=5,000円-4,000円

 

個人から法人の売買においては、個人売主が法人買主に適正時価の2分の1未満で売却した場合は適正時価による「みなし譲渡所得」課税となります。これは、個人間の売買であれば譲り受けた個人がいずれ株式を売却、ないしは相続が発生する際に相続人が申告することで、全体として適正な納税が図られることに対し、法人の場合は相続という概念がないため、法人が株式を売却しない限り全体として適正な納税が図れないために譲渡した時点で個人に納税義務を課すためです。
また、譲り受けた法人側では、時価により取得したものと見做され、時価との譲受価額との差額は受贈益とされます。これは、法人税法第22条2項において「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする」規定があるためです。つまり、無償あるいは低額により譲り受けた部分については収益を認識しなければならないためです。

ケース3:法人から個人への譲渡した場合

① 適正な時価4,000円で譲渡した場合

譲渡側(法人) 譲受側(個人)
譲渡価額4,000円と取得価額1,000円の差額である譲渡益3,000円に対して、法人課税されます。
譲渡益=4,000円-1,000円
取得時点では課税関係は生じません。株式の取得価額は4,000円となります。

 

② 適正な時価より低い価額2,500円で譲渡した場合

譲渡側(法人) 譲受側(個人)
時価により譲渡したものと見做されます。
適正な時価4,000円と取得価額1,000円の差額である譲渡益3,000円に対して、法人課税されます。
なお、適正な時価4,000円と譲渡価額2,500円の差額1,500円は、譲受人が自社の従業員である場合は給与となり、譲受人が第3者の場合は寄付金とされます(損金算入制限あり)。
譲渡益=4,000円-1,000円
寄付金or給与=4,000円-2,500円
適正な時価4,000円で取得したものと見做され、適正な時価4,000円と譲受価額2,500円の差額である1,500円について譲渡側の従業員である場合は給与となり、第3者であれば一時所得となります。
株式の取得価額は2,500円となります。
一時所得or給与=4,000円-2,500円

 

③ 適正な時価より著しい低い価額1,500円で譲渡(適正な時価の1/2未満での譲渡)した場合

譲渡側(法人) 譲受側(個人)
時価により譲渡したものと見做されます。
適正な時価4,000円と取得価額1,000円の差額である譲渡益3,000円に対して、法人課税されます。
なお、適正な時価4,000円と譲渡価額1,500円の差額である2,500円は、譲受人が自社の従業員である場合は賞与(役員の場合は役員賞与として損金に算入不可)となり、譲受人が第3者の場合は寄付金とされます(損金算入制限あり)。
譲渡益=4,000円-1,000円
寄付金or賞与=4,000円-1,500円
適正な時価4,000円で取得したものと見做され、適正な時価4,000円と譲受価額1,500円の差額である2,500円について譲渡側の従業員である場合は給与となり、第3者であれば一時所得となります。
株式の取得価額は1,500円となります。
一時所得or給与=4,000円-1,500円

 

④  適正な時価より高い価額5,000円で譲渡

譲渡側(法人) 譲受側(個人)
適正な時価より高い部分、つまり譲渡価額5,000円から適正な時価4,000円を引いた1,000円について、譲受側から寄付があったものとして取り扱われ、受贈益1,000円に対して法人課税されます。また、適正な時価4,000円と取得価額1,000円の差額、3,000円に対して、法人課税されます。
受贈益=5,000円-1,000円
譲渡益=4,000円‐1,000円
適正な時価で取得したものと見做され、譲渡価額5,000円と適正な時価4,000円との差額は、譲渡側の法人に寄付したものと扱われ課税関係は生じません。
株式の取得価額は時価である4,000円となります。

 

法人がその保有する株式を時価よりも安く譲渡してしまうと、時価で譲渡したものと見做され(時価―取得価額)が譲渡益として法人課税されます。
これは、先ほど述べたように、法人税法第22条2項の規定により「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする」規定があるためです。
また、法人売主が個人買主に適正時価より安く売却した場合は、(時価-譲渡価額)の差額は個人に対する給与や賞与・寄付金扱いとなります。これは、法人税法第37条7項において「寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。」と規定されているためです。

ケース4:法人から法人への譲渡した場合

① 適正な時価4,000円で譲渡した場合

譲渡側(法人)  譲受側(法人)
譲渡価額4,000円と取得価額1,000円の差額である譲渡益3,000円に対して、法人課税されます。
譲渡益=4,000円-1,000円
取得時点では課税関係は生じません。株式の取得価額は4,000円となります。

 

② 適正な時価より低い価額2,500円で譲渡した場合

譲渡側(法人) 譲受側(法人)
時価により譲渡したものと見做されます。
適正な時価4,000円と取得価額1,000円の差額である譲渡益3,000円に対して、法人課税されます。
なお、適正な時価4,000円と譲渡価額2,500円の差額出ある1,500円は、相手方に寄付したものと見做されます(損金算入制限あり)
譲渡益=4,000円-1,000円
寄付金=4,000円-2,500円
 適正な時価4,000円で取得したものと見做され、適正な時価4,000円と譲受価額2,500円の差額である1,500円について受贈益として法人課税されます。
株式の取得価額は4,000円となります。
受贈益=4,000円‐2,500円

 

③ 適正な時価より著しい低い価額1,500円で譲渡(適正な時価の1/2未満での譲渡)した場合

譲渡側(法人) 譲受側(法人)
時価により譲渡したものと見做されます。
適正な時価4,000円と取得価額1,000円の差額である譲渡益3,000円に対して、法人課税されます。
なお、適正な時価4,000円と譲渡価額1,500円の差額である2,500円は、相手方に寄付したものと見做されます(損金算入制限あり)
譲渡益=4,000円-1,000円
寄付金or賞与=4,000円-1,500円
適正な時価4,000円で取得したものと見做され、適正な時価4,000円と譲受価額1,500円の差額である2,500円について受贈益として法人課税されます。
株式の取得価額は4,000円となります。
受贈益4,000円―1,500円

 

④  適正な時価より高い価額5,000円で譲渡

譲渡側(法人)  譲受側(法人)
適正な時価より高い部分、つまり譲渡価額5,000円から適正な時価4,000円を引いた1,000円について、譲受側から寄付があったものとして取り扱われ、受贈益1,000円に対して法人課税されます。また、適正な時価4,000円と取得価額1,000円の差額、3,000円に対して、法人課税されます。
受贈益=5,000円-1,000円
譲渡益=4,000円‐1,000円
適正な時価で取得したものと見做され、譲渡価額5,000円と適正な時価4,000円との差額は、譲渡側の法人に寄付したものと扱われ寄付金されます(損金算入制限あり)
株式の取得価額は4,000円となります。
寄付金=5,000円‐4,000円

 

法人がその保有する株式を時価よりも安く譲渡してしまうと、時価で譲渡したものと見做され(時価―取得価額)が譲渡益として法人課税されます。
これは、先ほど述べたように、法人税法第22条2項の規定により「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする」規定があるためです。
また、法人売主が法人買主に適正時価より安く売却した場合は、(時価-譲渡価額)の差額は法人に対する寄付金扱いとなります。これは、法人税法第37条7項において「寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。」と規定されているためです。

おわりに

株式譲渡は、原則として適正な時価をもって行う必要があります。また、売買の主体によって適用される法律が異なり時価の算定も複雑です。株式の譲渡に当たっては、顧問弁護士・顧問税理士に相談して、事前に論点を明確化しておくことをお勧めします。